育休を取得した男性は1000人を超え、全体の15%に

――女性の意識改革やキャリア支援に比重を置く企業は多いのですが、日本生命では男性や上司の意識改革も同様に進めていますね。

中村:長時間労働が多いこれまでの男性型の働き方では、女性ばかりかこれからは男性も活躍していくことは難しい。価値観を変える必要があります。そこで働き方の変革に取り組もうと旗揚げしたのが、「男性の育児休業100%取得」でした。

育児休業を取得した男性社員
育児休業を取得した男性社員

――男性育休100%取得のインパクトは社内外で大きかったと思います。現状では、民間企業の男性の育休取得率は2.3%しかありませんから。

中村:当時、男性社員で育休を取得するケースはほとんどなく、「無理じゃないか」という声もありましたが、中途半端な数字を掲げても意味がない。それに、男性が育児に関わることで女性の両立に対する理解も深まるし、効率的な働き方を自ら考える良いきっかけになるはずです。会社にとっても本人にとっても部下にとってもプラスになる。最初は大変かもしれないけれど、皆で頑張ろうと決意しました。すでに100%の取得率が3年続き、累計1000人以上の男性社員が1週間の育休を取っています。これは男性従業員の約15%にあたります。

――とはいえ、忙しい現場を1週間も離れるというのは、現実的にはなかなか大変だったのではないでしょうか。混乱や軋轢が生まれるといったことはありませんでしたか。

中村:育休は、子どもが1歳半になる年の年度末までどの時期に取得してもよいことになっていますから、年初に各自で休暇取得のスケジューリングをします。取得する男性社員も管理職である場合が多いので、自身でマネジメントすることが成長にもつながると伝えています。すでに3年目なので、会社全体でもサポートする体制ができ始めていますね。

――「100%育休取得」のためには、対象者の上司が働きかけることも重要ですよね。そうした取り組みも行っているのでしょうか。

中村:当社では、課長相当職の管理職をニッセイ版「イクボス」として育成し、取り組むべき行動として4つの「イクジ」をあげています。次世代育成に注力する「育次」、闊達な組織・風土を作る「育地」、部下のワークライフバランスを大切にする「育児」、そして自ら成長し続ける「育自」です。経営計画の中の「人財価値向上プロジェクト」にこの4つのイクジを入れることで、社内に明確にアピール。セミナーやイクボス養成講座などを行い、イクボスを広める取り組みも行っていますね。

 「イクボス」育成の取り組みは年間を通じて行っています。昨年は、社長自らがイクボスを集め、「人財価値プロジェクト」やイクボスの意味合い、経営戦略との位置付けなどを話しました。これまで、社長が課長に対して直に話をする機会はなかなかなかったのですが、昨年は社長自らが「人財価値向上プロジェクト」の座長を担っており、いろいろな層に直接発信しています。また、イクボス養成講座やセミナーも実施しており、昨年度は、本店本部の課長層に全員受講してもらい、全体で400人ほど集まりました。加えて、部下による上司の評価や意識実態調査などを見ていきながら、部長層から組織運営の指導を受けるなど、高いレベルで仕事ができるように養成しています。

管理職を「イクボス」として育成することを重視。他社との交流会も実施
管理職を「イクボス」として育成することを重視。他社との交流会も実施

――課長が「イクボス」となるような様々な仕組みや仕掛けがあるということですね。12月に閣議決定された「男女共同参画基本計画」でも、男性の育休が目標数値になっていますが、それに先駆けた形になっていますね。

中村:期間の長さなど、さらに進化できると思いますし、この先10年も経てば、本当に貴重な財産になり、今掲げていることが実現していくと考えています。今から楽しみです。

――今後の課題はどのあたりにあるとお考えですか。

中村:ひとつは介護の問題です。個々人でいろいろなケースがあると思いますので、どうしたら皆が問題を解決しながら両立していけるかを解いていかないといけません。せっかく育った管理職が離職せざるをえないという状況にならないようにしたいですね。

 もうひとつは、皆が高い目標を持って仕事を続けられる仕組みをいかにつくるかということです。大きな課題ではありますが、長期的な視点で、育成や風土づくりに取り組んでいきたいと思っています。

インタビューアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、取材・文/西尾英子、撮影/竹井俊晴
日経ビジネスオンライン2016年5月20日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。


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