アーティストとしての評価も

 くっきーさんがブレークしたもう一つの理由は、お笑い文化が広まったことで、お笑いやエンターテインメント全般に対する世間の理解力が上がったことだと思います。特に、ウェブの普及によって、若い世代を中心に「前例のない変なものでもそのまま受け入れて楽しむ」という感覚が一般的になりつつあります。

 渡辺直美さんの大ブレークもその一例です。渡辺さんはもともと「自分は正統派のネタが作れない」というコンプレックスを抱えていたそうです。しかし、海外アーティストのなりきりパフォーマンスをしたり、インスタグラムでおしゃれな写真や面白い写真をアップしたりすることで、芸人の枠にとらわれないスターになりました。

 ウェブの世界では、たとえ意味不明であっても、パッと見た時にインパクトがあるもののほうが面白がられて注目されやすい傾向があります。くっきーさんがブレークするきっかけの一つになったのが、テレビ番組やインスタグラムで披露していた「白塗りものまね」です。自分の顔を白く塗り、その上に大胆に筆を入れて、さまざまな芸能人になりきるというものです。

 くっきーさんの白塗りものまねは、明らかに本物とはかけ離れているのですが、どこか似ていなくもないところが笑いを誘います。このパフォーマンスは、絵を描くことを得意としているくっきーさんが、自らの顔面をキャンバスに見立てて似顔絵を描いているようなものです。「絵がうまい」という強みを生かしつつ、「白塗り」という不気味な要素も取り入れることで、インパクトもオリジナリティーも存分にある独自の芸が誕生したわけです。

 また、最近ではくっきーさんはアーティストとしても評価されつつあります。2017年には東京・原宿で「超くっきーランド」という大規模な展覧会が開かれ、3日間で1万人以上を動員しました。その後、岡山、千葉、「超くっきーらんどneo」と名前を変えて福岡、台湾でも展覧会が開催され、その勢いは海外にまで広がりを見せています。

 もともと、芸人がやっている「ネタ」というものは、自分で台本を書いて演じるだけではなく、衣装もメークも音楽も小道具も、すべてを自分で考えてつくっていく「総合芸術」のようなところがあります。いわば、自分の手で自分の「世界」をつくる仕事でもあるわけです。絵を描いたり造形物を作ったりする才能のあるくっきーさんは、もともと独自の世界観を持っていました。そんな彼の活動が「アート」として再評価されているのも当然のことです。

 渡辺直美さん、ロバートの秋山竜次さんなど、独自の強い世界観を持っている芸人は、アートとの親和性が高いと言えます。くっきーさんも彼らに続く「アーティスト型芸人」として、これからますます活躍が期待できそうです。

ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんとのバンド「ジェニーハイ」ではベースを担当しています。これからの活躍にも注目です (C)PIXTA
ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんとのバンド「ジェニーハイ」ではベースを担当しています。これからの活躍にも注目です (C)PIXTA

文/ラリー遠田 写真/吉本興業、PIXTA

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