“ジャグリング男子”と付き合うと……

■ジャグリング男子の“ちゃんとやる幻想”

 ジャグリングについて理解しても、「メールを返信する時間くらいあるだろ」と思う方も多いのではないでしょうか。ほかならぬ私もジャグリング男子の一員なのでわかるのですが、我々は「重要だからこそ後に回す」と発想してしまうことがあります。なぜなら自分にとって重要なことほど、対応に必要とする処理能力が大きくなるからです。

 「今はそれをやる時間がない。後でちゃんとやろう。」

 これがジャグリング男子に見られる“ちゃんとやる幻想”です。前のページで見たように、ジャグリング状態にある限りは“ちゃんと”やれる時期など永遠に来ないのですが、渦中にいるとそれがわかりません。こうして書きながら私は、自分の“ちゃんとやる幻想”によって引き起こした仕事上の失敗や、大切な人の信頼を失った不義理な行いをいくつも思い出し、たいへん落ち込んでおります。

■典型的な“ジャグリング男子との別れ”

 我々桃山商事が恋バナを収集するなかで、女性から聞く典型的な“ジャグリング男子との別れ”は以下のようなものです。

 「いつも忙しくしていて滅多に会えず、メールもよこさなかった彼に愛想をつかせて別れを告げたら、泣きながら引きとめられた。」

 泣くほど大事な彼女なら、最初からちゃんと向き合えばいいのに…と思いますが、そこはジャグリング男子。彼にとって、優しい彼女は「ずっと先の締切」と同じです。

 それは「重要だが緊急でないこと」なので、すぐ近くになるまでトンネルの外に出ています。心のどこかではマズいと気付いているのですが、「今」はそれどころではありません。

 そしていざ別れを告げられると、「まるで突然の出来事であるかのように」受け止め、動揺して泣き出すのです。

■徹底的に決断を迫るとどうなるか?

 では、反応の鈍いジャグリング男子に対して、別れを切り出すのではなく、徹底的に決断を迫るという対応を取るとどうなるでしょうか。ひとつの例として紹介したいのが、国内線のパイロットをつとめる、私の友人Sのエピソードです。

 数年前、Sは結婚を約束した彼女に「結婚式をいつにするのか」という決断を迫られました。しかし折り悪く半年にわたる厳しい操縦訓練が始まったところだったため、式の準備はそれが終わってからにしてほしいとSは提案したそうです。しかし彼女と彼女の親は、「訓練中でも休日はあるんだから」と頑として引き下がらず、結局並行して進めることになりました。

 そんなある日の明け方、Sは息苦しくて目が覚めました。おかしい。うまく呼吸ができない。……いわゆる過呼吸の状態に陥ったのです。

 幸い大事には至らず自分で病院に向かいましたが、精神的な安定が絶対条件であるパイロットを生業としているSにとっては、ショックの大きい出来事でした。

 数週間後、Sと彼女は結婚を解消しました。

 このような悲しい結末にならないためにはどうすればよいか、最後のページで考えてみます。