この本がなぜ恋愛と関係あるのか

■「正しい/正しくない」の話ではない

 ただし、これは“是非”を問う分類ではありません。「安全性や環境への負荷を考慮している」と言えば何となく左派の方が正しそうに聞こえるかもしれませんが、もちろんそんな単純な話ではありません。

 本書でも様々な角度から検証されています。例えば著者は〈きちんとした制度で行われる競争は、食品産業の流通の質の向上につながると考えるべきだ。安い食が大量に生産されることは、低所得者層の生活を救っているし、何よりも「食の民主化」を実現している〉と述べているし、また〈世界が20世紀の人口増に対処できたのは、化学肥料の使用による収穫量の増大によるものである〉という学説を紹介するなど、産業化の利点も挙げられています。

 さらに、無農薬の有機農業は確かに環境への負荷は低いものの、その反面“土地効率”が悪く、より広い農地を必要とすることから、実は〈自然環境保護、持続可能性という部分で劣っている〉という研究結果も紹介。著者はこれを〈フード左翼のジレンマ〉と呼んでいます。

■食と政治はいかに結びついているか

 このように、食は「経済成長」や「環境問題」といった政治的トピックと根底でつながっています。それをどのように考え、食べるものをどう選択していくか。ここが政治意識のあらわれるところだと著者は言います。

〈その人がその日に食べるものを選択するということは、誰にも日々発生するその人の考えが強く反映される行為だ。(中略)それぞれの人々の食への向き合い方やこだわりの延長線上に、その人ならではの生活の在り方が見えてきて、さらにそこを突きつめると、それは政治意識というものになる。そして、その人の行動そのものが政治に結びつくのだ〉

 そして、本書で用いられている“左翼”“右翼”という分類は、個々の意識を探るための重要な手がかりになり得るというわけです。

■物事をクリアにする左右の判断軸

 さて、ようやく恋愛の話に接続するところまでたどり着きました。

 言うまでもなく、恋愛とは「異なる価値観を持つ人間同士が関係を築いていく」という行為です。そこにはおそらく、本書が提示する“左翼”“右翼”という分類が十分に適用可能です。

 というのも、私は本書を「あえて左右に分けてみることでクリアに見えてくるものもあるのでは?」という著者からの提案と受け取ったのですが、これまで見聞きしてきた恋バナや自分自身の体験をこの左右軸で眺めてみると、「あのケンカの原因はここにあったのか!」「どうりで元カノと馬が合わなかったわけだ……」など、いろいろ納得する部分が多かったのです。

 それは一体どういうことか。次のページでは様々な事例を紹介してみたいと思います。