“恋バナ収集ユニット”桃山商事の清田代表と森田専務が、恋愛の悩みに効く1冊を紹介していく新感覚のブックガイド『桃山商事の「恋愛ビブリオセラピー」』!

今回のお悩み
・彼との恋をうまく進めたいが、どう動けばいいかわからない。
・合コンやお見合いパーティーなどの出会いの場に足繁く通っているが、これという男性と出会えない。
・友達と比べると、自分の恋愛はいつも「うまくいかない」と感じる。
・先が見えない恋愛や人生に、不安を感じている。
そんな悩みに効く1冊
『観察する男 映画を一本撮るときに、監督が考えること』
(著=想田和弘、編=ミシマ社/ミシマ社)

恋愛映画よりも役に立つ「観察映画」とは!?

■観察映画ができるまで

 こんにちは。桃山商事の森田です。今回ご紹介する「恋愛に関係ないけど、恋愛にめっちゃ役立つ」本は、ドキュメンタリー映画作家の想田和弘監督の著書『観察する男』です。

 想田監督は、自らの作品を「観察映画」と呼んで発表してきました。自民党のいわゆるドブ板選挙に密着して、日本の選挙活動の実態をコミカルに映し出した『選挙』。精神科医院の様子を、患者さんを含む全ての被写体にモザイクを入れることなく発表した『精神』……などなど、その作品は国内外で高い評価を得ています。

 本書は、新作観察映画『牡蠣工場』(シアター・イメージフォーラムにて上映中、全国順次公開)の製作に併走する形で作られたノンフィクションです。具体的には、撮影・編集・映画祭への出品という映画製作の各段階に合わせて行ったインタビュー取材の記録と、それぞれの時期に想田監督がツイッターなどで綴った文章が時系列にまとめられています。

 そのため読んでいると、映画ができあがっていく現場に立ち合っているような新鮮な感覚が味わえます。この「臨場感」が本書の大きな魅力の一つであり、これは想田監督の観察映画自体に通じるところがあるように思います。そこでまず、観察映画とはどのような映画なのかを紹介します。

 なお『牡蠣工場』はタイトルからして恋愛映画ではないのですが、本書に書かれていることは、ロマンチックなラブストーリーを観るよりもずっと恋愛の役に立つのではないかと、私は考えています。

■観察映画と「ふつうのドキュメンタリー」のちがい

 そもそも観察映画では、だれが何を「観察」するのでしょうか。
 このことについて、別の著作で想田監督は次のように説明しています。

観察という言葉には二重の意味を込めています。一つは、作り手である僕が目の前の現実をよく観察して、その過程で発見したことを映画にする、という意味ですね。そのために事前のリサーチをしたり台本を書いたりせずに、目の前の世界をよく観てよく耳を傾けながら、行き当たりばったりでカメラを回す
もう一つは、観客である皆さんに自分の目と耳を使って観察していただく、という意味です。そのため、ナレーションやBGMやテロップによる説明を使いません

(『カメラを持て、街へ出よう』、集英社インターナショナル、p.45-46)

 これを読んで、「ドキュメンタリーなんだから台本を書かないのは当たり前なのでは?」という違和感を持たれるかもしれません。しかし、例えばテレビのドキュメンタリーでは、事前に徹底したリサーチを行い、台本を書いてから撮影に臨むことがほとんどだそうです。実は想田監督自身、かつてNHKのドキュメンタリー番組のディレクターとして40本以上の作品を作ったという経験があり、そのなかで「台本至上主義」に疑問を持つようになったといいます。

先に「こういう条件」というものがあって、それに合うものを探すのって、すごく難しいことなんです。自分の条件が先にあるから、それに合うものを探すのは、とかく「ないものねだり」になってしまう。
(『観察する男』p.91)

 このようにして作られた台本至上主義のドキュメンタリーでは、結果として、目の前の現実を台本やテーマに合わせて再構成していくことになります。すると台本やテーマに合わない出来事や被写体は、どんなに面白いものであっても撮影されないか、撮影されても編集でカットされることになるのです。