“男らしさの呪縛”と結婚に対するプレッシャー

田中俊之(たなか・としゆき)/武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍。他の著書に『男がつらいよ─絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)などがある

田中 例えば桃山商事さんの記事には、「結婚に向き合わない男たち」の話がよく出てきますよね。それを受けてみなさんは、「男は女性が抱えている“妊娠のリミット意識”を理解していない」「男は結婚したら自由に使えるお金や時間が減ると感じている」「男は将来に関するビジョンが漠然としている」といった感じで男性心理を分析している。

佐藤 完全に自分自身の話でもあるので、毎回胸が痛いです。

田中 男性学では「なぜ男性がそうなってしまうのか?」という部分について考えていくわけですが、男性が結婚に向き合いたがらない背景には、「男性にのしかかる期待やプレッシャー」や「狭すぎる男性のライフコース」といった問題が関わっていると思います。

清田 それはどういうことですか?

田中 今の社会は男性に「女性をリードしろ」「家族を養え」「競争に勝て」「でっかい夢を抱け」といったことを期待し、要求します。また、社会に出た男性には基本的に「定年までフルタイムで働く」という選択肢しか与えられていません。

佐藤 なるほど、確かにそうですね……。

田中 さらに今はアラサー男子の平均年収も10年前にくらべて100万円近く下がっている。結婚に向き合いたがらない男性の問題は、そういった社会構造とも無関係ではないはずです。

清田 「結婚してもちゃんとやっていけるか自信が持てない」という男性は多いように思いますが、その影響もめっちゃありそうですよね。ていうか、まさに5年前の僕がそうでした……。

森田 清田代表は当時、6年間つき合った恋人との間に結婚の話が持ち上がっていたんですが、「仕事がまだ安定しない」「結婚生活や子育てにリアリティが持てない」といった理由でなかなか結婚に踏み切れなかった。それで恋人に愛想を尽かされてしまった過去があるんですよ。

田中 実は僕にも似たような経験があります。年頃も同じくらいのときに。

清田 そうなんですか!?

田中 当時おつき合いしていた女性は、結婚して子どもを作って家を買ってと、かなり明確なライフプランを持っていたんです。一方の僕は、自分の人生に対するビジョンが全然ないタイプで、正直「飢え死にしなきゃいい」くらいのレベル。それまで持ち家なんてまったく興味を持ったことがなく、それゆえ彼女の描いているプランを背負いきれないなと感じてしまった。それが一因となって別れに至ったという……。

佐藤 それ、とてもよく分かります。私も数年前に結婚を決断できず恋人にフラれた過去があるんですが、彼女から結婚後の具体的なプランを聞く度、息苦しいような、逃げたくなるような気分になっていました。そういう態度が、彼女からすれば「愛情の低下」や「関心の低さ」に映っていたんだと思います。

田中 具体的なビジョンを描く女性に対し、それを叶える自信が持てず、結婚に対して及び腰になる男性……。みんな似たような経験をしてますね(笑)。もっともこのエピソードは、我々がいかに社会の要求してくる“男らしさの呪縛”に囚われているかを示す典型的な事例だと思います。