女性のライフプランはなぜ具体的なのか

田中 ただしこれは、「だから仕方ないよね」で終わらせていい話ではありません。実は女性が具体的なビジョンを描く背景にも社会構造の問題が潜んでいて、それは“男女の賃金格差”という問題です。国税庁が毎年発表している「民間給与実態統計調査」によると、2015年現在で男女の平均年収には242万円の差(男性:514万円、女性:272万円)があり、これが結婚に対する男女の温度差を生み出すひとつの原因になっていると思われます。

佐藤 そんなに違いがあるんですね……正直、初耳でした。

清田 同調査を元にしたこの記事を見ると、正規雇用だと男性は532万円で女性は359万円、非正規雇用になると男性は222万円、女性は148万円となっていますね。しかも、男性は基本的に年齢とともに平均年収が上がっていくのに対し、女性はほぼ横ばいなんですね……。

田中 これは女性にとって厳しい現実だと思います。どうして日本がそんなシステムでやれてこれたかというと、「フルタイムの男性とペアになること」が前提になっているからです。つまり、「だから女性たちの給料は安くてもいいでしょ?」という理不尽な設定になっている。

佐藤 今は男女とも同じように働いているのに……。

田中 こういう状況下にある女性にとって、結婚がある種の“生活保障を得る手段”に映ってしまっても無理はありません。

清田 なるほど、そういった背景があるために、将来のビジョンを具体的に描かざるを得ないわけですね。

佐藤 そういえば、我々が話を聞いた女性にも非正規雇用で働く人が一定数いましたが、彼女たちは将来の不安と恋愛の悩みがごちゃ混ぜになっているような印象でした。

田中 社会が女性を不当に扱ってきたツケを、なぜか女性が一番食らっている。そんな理不尽な事態になっているのが現状で、こういった部分から見直していく必要があると思います。

清田 賃金格差や妊娠のリミット意識によって女性が結婚に対する焦燥感を急き立てられる一方、男性は“男らしさの呪縛”などによるプレッシャーで結婚に及び腰になっている──。結婚に対する男女の温度差というのは、いろんな要素が複雑に絡み合った結果なんですね……。

森田 もちろん簡単に解決する問題ではないけれど、まずは男女ともにこういった社会構造の存在を知ることが大事ですよね。それを知らないと、「煮え切らない彼氏の態度に苛立つ女性 vs. 彼女を重く感じて逃げたくなる男性」という、個人の性格だけの対立に終始してしまうわけで。

田中 社会構造を意識するというのは、当事者同士が歩み寄るための一歩になるはずです。私も子どもの頃、たまに家にいるとすごく厳しく振る舞う父親と、何かと心配性な母親に対して苛立ちや苦手意識を感じていたんですが、それで見方が変わったという経験がありました。

佐藤 どういうことですか?

田中 サラリーマンだった父親は、「長時間労働」のせいでほとんど家にいることができず、それで一緒にいられる少ない時間の中で「父親らしく」振る舞おうとしたのではないか。一方の母は、子育てにまつわる負担や責任を一人で背負わざるを得ない状況の中で、基本マインドが「心配」になってしまったのではないか──。そうやって考えると、当時の両親の態度にも致し方ない部分があったのかなと思えたんです。

清田 背景にある社会構造を意識したことで、対立しがちだった自分と親の関係を見つめ直すことができたというわけですね。

森田 我々も「男を責めて終わり」ではなく「歩み寄り」につなげられるよう、俯瞰的な視点も取り入れていきたいですね。

文/清田代表(桃山商事)

◆後編は明日5月26日に公開です。お楽しみに。

お話を伺ったのは…
田中俊之
武蔵大学社会学部助教
田中俊之(たなか・としゆき)さん
1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。博士(社会学)。学習院大学「身体表彰文化学」プロジェクトPD研究員、武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師を経て、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍。他の著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ─絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)など。
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