近づきすぎた「男性と仕事」を引きはがすためには

清田 ここまで、我々の経験や見聞きしてきたエピソードを例に「男性の働きすぎ問題」について考えてきました。男性が“馬車馬”のように働くことを女性も社会も期待し、男性自身もその価値観にコミットしている一方、その影響で男性は自分のやりたいことを見失い、女性は男性たちとのコミュニケーション不足に苛まれている……。

田中 そうですね。そして、男女ともにそのメカニズムに気づいていないというのも問題だと思います。

森田 この“馬車馬理論”から抜け出すには、一体どうすればよいのでしょうか。

田中 もちろん、当人同士が互いに幸せならば、それはそれでひとつの形だと思います。ただ、現在の社会においては男性と仕事(=会社)というものが近づきすぎてしまっているため、いったん強制的にでも引き離した方がいいというのが私の考えです。

森田 具体的にはどういうことでしょう?

田中 例えば働く時間にしても、労働基準法的に言えば週40時間までというのが「原則」なんですが、日本社会においてはそれが「最低ライン」で、当たり前のようにそれ以上の労働が求められます。これひとつ取っても異様な状態なのに、それが普通のこととしてまかり通っている。

佐藤 私はそこまで仕事が好きじゃないので、なるべく定時に帰りたいんですが、5時に会社を出ると何となく後ろめたさを感じます。

田中 本来なら堂々と帰っていいはずなんですけどね。「1日8時間という枠の中でいかに効率よく仕事を終わらせていくか」という部分にこだわった方が、長時間働くよりずっと生産性も上がるでしょう。

清田 確かにそうですよね。でもこの社会では、長時間労働する方がむしろ楽なんでしょうね……。先生の著書にも〈考えるのをやめてしまえば、男性は仕事中心の生活を送るべきだという「常識」に一瞬で飲み込まれてしまいます〉という一文があり、すごくドキッとしたんですが、この構造から抜け出すためには具体的な行動が必要だと感じました。

田中 そうですね。社員と会社は文字通り“ビジネスライク”な関係を結んでいくべきです。そのためにも、まずは個人個人が具体的に行動していくしかない。例えば男性の育児休暇にしても、取得する人はわずか2.3%(2014年)しかいません。今のままでは育休を取得する男性は“例外扱い”ですが、これが10%を超えてくれば空気も変わるかもしれない。

佐藤 「あ、育休取ってもいいんだ」って風潮になりそうですよね。帰れるときはちゃんと定時に帰るなど、そうやっていろんな「普通」を少しずつ変えていけたらいいですよね。

田中 僕たちも力を合わせ、男性と仕事の癒着を引きはがしていきましょう(笑)。

森田 まずは我々含め、男性自身が自分たちを取り巻く社会構造の存在に気づくことが大切ですね。

佐藤 先生の著書『男がつらいよ──絶望の時代の希望の男性学』には、ジェーン・スーさんによる〈男がつらくなくなれば、女も少しは楽になる! だって男のプライドの皺寄せは、女子供にもくるんだもの。〉という帯文がありましたが、これは本当にその通りだなと思いました。これからの時代は、つらいときはちゃんと「つらい」って言える男性の方がイケメンなのかもしれませんね。

清田 この記事を読んでくれた女性たちは、身のまわりの男子にぜひ本書を読ませてみてください!

文/清田代表(桃山商事)

お話を伺ったのは…
田中俊之
武蔵大学社会学部助教
田中俊之(たなか・としゆき)さん
1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。博士(社会学)。学習院大学「身体表彰文化学」プロジェクトPD研究員、武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師を経て、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍。他の著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ─絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)など。
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