約束すら守らない、自由すぎる恋愛観

■アナーキズムとは

 さて、アナーキズムは日本語で無政府主義と訳される政治思想です。著者はこれを「他人の支配なんてうけない、うけなくてもやっていけるという思想」だと説明しています。つまり政府はもとよりいかなる組織/人/慣習からも自由でいようとする思想だと言えるでしょう。

 これだけでもかなり過激ですが、伊藤野枝が実践したアナーキズムは更にぶっ飛んでいます。

■約束を守らない女
生き方を固定化されたくない野枝の思想とは……?(C)PIXTA
生き方を固定化されたくない野枝の思想とは……?(C)PIXTA

 野枝はその短い生涯を通じて“約束”からも自由であろうとしました。それは約束が、「どんなに良心的にかわされたものであったとしても、ひとの生き方を固定化し、生きづらさを増すことにしかならないから」です。そのため彼女は、どのような相手と交わした約束も平然と破りました。

 ……組織や慣習はともかくとして、約束? 約束を守らないのって人としてどうなの? と思われる方が多いかもしれません。

 私たちの社会では多くのことが約束を基盤として成り立っているので、それを守らない人は“人でなし”として非難されます。本コラムのテーマである恋愛や結婚は、そんな約束の代表例と言えるでしょう。

 そこで、ここからは約束としての恋愛や結婚について、野枝の恋愛遍歴も参照しつつ考えていきます。

■約束としての恋愛

 まず一般的な話ですが、誰かと恋人関係になるということは、“パートナー以外とは性的な行為を行わない”という排他的な約束を相手と交わすことです。

 また、行為だけでなく、“他の人のことは好きにならない”という、気持ちに関する約束をパートナーに期待することも多いでしょう。裏を返すと、いつか気が変わることがあるとわかっているからこそ、“ずっと一緒にいようね”などと約束するとも言えるのですが。