より良い関係を築くための謝罪

許されるだろうという甘え

 また、「とりあえず謝る」態度には、「すぐに許されるだろう」という甘えや打算が強く働いている場合が多いように思います。謝罪にこういった効果を狙う気持ちを、本書では “戦略的な気持ち”と呼んでおり、これが動機となっている謝罪は「真正の謝罪」ではないとされます。

 「真正の謝罪」は、純粋に「申し訳ない」という気持ちだけで行われます。ただ実際には、申し訳ないという気持ちで謝罪をしても、心のどこかで許しを期待していることがほとんどでしょうし、それを厳密に区別することにあまり意味もありません。

 ここで重要なのは、「戦略的な気持ち」を相手に気付かれると、謝罪の効用がかなり失われるということです。「口では謝ってるけど、こいつほんとは悪いと思ってないな……」となる。このことを著者は、「つまり謝罪は、戦略的でありながら、非戦略的と思われることが大切という高度なコミュニケーションなのである」とまとめています。

 おそらく、「とりあえず謝る」という態度に潜む戦略的な気持ちは、謝る相手が真剣であるほど気付かれやすいものなのだと思います。真剣な相手に「高度なコミュニケーション」を成功させるには、その戦略はあまりに浅薄なのです。

“とりあえず”謝られたらどうすればよいか

 では、自分が真剣に向き合っているのに、パートナーに「とりあえず謝る」という態度を取られたら、どうすればいいでしょうか?

 前述のように感情をぶつけにいくのも一つの選択肢です。ただし、感情的になれば相手はそれを鎮めることに必死になるので、元々の問題は棚置きになる可能性が高いように思います。

 問題の解決を目指すならば、一度冷静になって「自分がなぜ怒っているのか」を整理してみるといいかもしれません。「わからないこと」が相手の「とりあえず謝る」という態度を生み出しているのですから、わかるように説明してあげればいいのです。

 わからないのがそもそもムカつくという気持ちをぐっとこらえ、整理した内容を伝えて、「これに対してあなたは謝ったってことだよね?」と確認してみる。そこまで言われれば、相手も真剣に考えざるを得ないでしょうし、うわべだけの謝罪をしたことを恥ずかしく思うかもしれません。

謝罪は“前向き”な行為

 カップルや夫婦は、他人同士が最も密接に関わる関係性のひとつです。いくら近くても他者ですので、意見がいつも一致するとは限らず、ケンカをしてギクシャクしてしまうこともあります。

 ただ、こじれるのを恐れて言いたいことを言わないことは問題を先送りにするだけであり、気付いたときには「怒る気もしない」という引き返せないフェーズに突入してしまいます。

 大切なのは、事なかれ的にまるくおさめることではなく、言うべきことを言い合い、結果としてたとえこじれても、それを建設的に解決し、より良い関係を築きあげることなのだと思います。本書はそのための最良の指南書になります。

謝罪はトラブルが起こった時の“事後処理”ですが、その後も相手との良い関係を続けたいからこそ、人は謝るのだと思います。その意味では優れて“前向きな行為”とも言えるのです。

文/森田専務(桃山商事)