ユマニチュードは恋愛でどう役立つのか

■「自分もこのように扱われたい」

 これまでユマニチュードの哲学とメソッドを駆け足で紹介してきました。その微に入り細にわたる内容を見ていると、「相手を“人間らしく”扱う」という行為の難しさや繊細さを思い知ります。

 もっとも、これは「プロ向け」のメソッドであり、決して習得が容易なものではありません。ユマニチュードに学び、すべての人に優しく誠実な態度で接することができれば理想的ですが……そのためにはひたすら精進あるのみで、実際に他者と関わる中でトライアンドエラーを繰り返していくしかないでしょう。

写真/Kazuhiro Konta(PIXTA)
写真/Kazuhiro Konta(PIXTA)

 ただし、ひとつだけすぐに得られるものがあります。それは、「自分もこのように扱われたい」という気持ちです。

 冒頭でも紹介したとおり、ユマニチュードは看護や介護の世界で劇的な効果を上げている認知症ケアの技法です。長年寝たきりになっていた患者さんが再び歩き始めたり、攻撃的になってしまった患者さんが突如穏やかになったり……その効果はときに“魔法”とも称されているそうです。

 私は認知症の当事者ではありませんが、本書を読んでいると、ユマニチュードによるケアで回復していった患者さんたちの気持ちが少しだけわかるような気がしました。

■ユマニチュードによるエンパワメント

 ユマニチュードが最も重視しているのは、人間の尊厳と能力です。本人の意思やペースを必ず尊重する。本人が持っている能力は決して奪わない。その人が嫌がることは決してしないし、その人の気持ちを決して置いてけぼりにしないし、時間がかかっても反応を待つし、身体が動く限りはできるだけ自分で動いてもらう──。

 どうでしょう? こんな風に扱ってもらえる世界なら、とても安心感があるだろうし、自信や積極性も芽生えるだろうし、失敗を恐れずにアクションを起こせるような気がしませんか? おそらく患者さんたちは、こういう扱いによって生きる力を取り戻していったのではないかと私は想像しています。

 恋愛に限らず、様々な人と関係を築いていく中で、互いにユマニチュードのように接することができれば、ずいぶん健やかに暮らしていけるような気がします。もちろんこれだってそんな簡単な話ではないし、どうしたって軋轢やディスコミュニケーションは生まれてしまうものですが、少なくとも「自分はこのように扱われたい」と思うことは、誰もが有する権利だし、幸せに生きていくためにも、極めて大切なことだと思います。

■自分自身にもユマニチュードを!

 我々の元へ恋愛相談にやってくる女性の中には、恋人や意中の人から酷い扱いを受けても我慢してしまう人や、相手に疑問が募り、目を合わせられなくなるほど嫌悪感を抱いてしまっているのに、「ここで別れたら一生結婚できないかも」といって自分の気持ちに蓋をしてしまう人などが多々います。

 しかし、例えば「嫌なものは嫌だ」と認めてあげないと、自分自身を苦しめる結果になってしまいます。全身でキャッチしているはずの情報を無視することは、身体にとって相当のストレスになるはず。それは大袈裟に言えば、自らの尊厳と能力を蔑ろにしていることと同義です。

 そう考えると、「自分はこのように扱われたい」と明確な意思を持ち、そこから外れる扱いを受けたときはキチンと異議を唱える。そして、もしもそれで改善しないようなら、勇気を持ってその相手との関係を断ち切る。こういう態度は “自分自身に対するユマニチュード” と言えるような気がします。だから大事だと思うわけです。

 自分と相手を“人間らしく”扱い、健やかで良好な関係を築いていくためにも、ぜひ『ユマニチュード入門』の一読をオススメいたします!