11月9日にNHKニュース番組『おはよう日本』で特集された「資生堂ショック」が大きな話題となっている。「資生堂ショック」とは、資生堂が女性活躍推進の一環として、子育てを理由とした短時間勤務中の美容職社員に対して、遅番や土日勤務を求めた施策だ。これまで子育て中の女性に「優しい」会社という印象が強かった資生堂が、一見、女性に厳しく見える施策を打ち出したことで、一部からは「時短勤務者に冷たいのではないか」と批判の声も上がっている。日本をはじめ、各国の女性活躍推進の取り組みについて詳しい日本女子大学人間社会学部教授の大沢真知子さんは、この問題について「資生堂ショックは、日本が時代の転換点を迎えていることを示す重要な変化であり、女性が仕事と家庭を両立させて活躍する社会の実現のためには、家庭での男性の家事や育児分担や長時間労働の是正、さらには、働くお母さんを支える社会のインフラ作りが欠かせないことを示している」と指摘する。大沢さんに寄稿していただいた。

女性活躍とは「女を男にして働かせること」ではない

写真/cba(PIXTA)
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 「資生堂ショック」と言われる資生堂の働き方改革は、一見女性に厳しい改革のように見える。しかし、会社が両立環境に関する聞き取りを行い、協力者が身近にどうしてもいない場合はベビーシッター代の補助を提案するなど環境を整えたうえで、来店客の多い夕方や夜、土日の勤務を入れている。それによって、育児中の社員にもキャリアアップにつながる仕事経験を積ませることができるようになった。番組が取り上げた家族のケースでは、遅番のときは夫が保育園のお迎えをすることで、それが可能になっている。また、妻は「時短勤務者だからやる気がないと思われたくない。これからはさらに上を目指して責任ある地位について活躍したい」と答えている。

 今まで日本では、働くお母さんの増加という問題に、女性が仕事と育児の二重労働を担い、男性は主に仕事をするということで対応してきた。その結果、女性が子どもを養育しながら男性と同じように活躍することは難しく、子どもを育てながら働く女性のできる仕事も限られてきたのである。

 今回の資生堂の方針転換は、いま述べたような現状に対して、時短勤務者にもフルタイム勤務者と同様の成果を求める代わりに、活躍の機会を与えるというものである。背後には、働く女性が増えたことに加えて、女性の勤続年数が長くなり、一般職の女性のなかにも中核人材として期待される女性社員が増加したこと。さらには、企業内の両立支援策が充実され、育児中の女性の時短勤務が広がったことがある。その結果、出産後も継続して働く女性が増えている。

 また、企業においては、競争が激化し、女性社員を一時期にせよ、“戦力外”として扱う余裕がなくなってきていることもある。資生堂のように育児中の社員も戦力とするよう、会社側も時短勤務者側も意識を変えていこうとする会社もある一方で、戦力外として暗に退職を迫る会社も増えている。いわゆるマタハラ(マタニティハラスメント)と呼ばれる違法行為である。

 なぜ女性は出産すると戦力外とみなされてしまうのか。それは、さきに述べたように、日本がいまだに「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業が前提とされた社会のままだからである。

 安倍政権が推進する「女性が活躍する社会」を実現するためには、仕事の領域において女性の活躍を推進するだけではなく、男性が家庭において働く妻を支え家事や育児を分担することが求められる。後者の変革も同時に進める必要があるのである。加えて、保育園の整備など、社会が子育て環境を整備することも必要だ。

 保育園のお迎えのために夕方に退社できる早番勤務を選んでいる社員が、昼から閉店までの遅番勤務や土日勤務に入るためには、誰かが代わりに保育園のお迎えに行かなくてはならない。祖父母やベビーシッターに依頼する人もいるだろうが、夫が定時に上がってお迎えに行き、夕食準備などの家事育児を行う必要に迫られるケースも増えるだろう。「資生堂ショック」は、妻の活躍には夫の協力が不可欠であり、女性が活躍するためには男性も働き方を変えなければならない、という厳しい事実を突き付けたものなのだ。