長時間労働と家庭での男女の不平等が女性活躍を妨げる根本的な原因

 男性も好き好んで残業をしているわけではない。男性も週の何日か、残業をせずに定時に上がって退社できれば、保育園のお迎えに間に合うし、家族そろって夕食を囲むことも可能だ。繰り返しになるが、女性活躍を妨げている根本的な原因は、家庭での夫と妻の分担が不平等なことにあるのである。さらには、その前提のもとに、長時間労働がある。確かに正社員の仕事の負担は増加しているが、同時に、長時間労働が評価される仕組みがあり、背後には、「長時間労働をしなければ、活躍できない」という思いこみが、あるのではないだろうか。

 私は、政府が「女性が輝く日本」などと女性活躍推進の旗を掲げたものの、今一つ大きな広がりを見せないままトーンダウンしている原因が、この家庭での負担の不平等に政府が踏み込んでいないことにあるのではないかと見ている。女性活躍推進法は成立したが、男女両方がキャリアを手にする時、誰が家事育児を担当するのか、長時間労働の問題をどうするのか、といった議論は広がらず、女性たちが活躍できる明るい展望は一向に見えてこない。さらに、都会では、保育所不足も切実だ。

 このように両立環境も不十分で、かつ、家事や育児は女性の仕事であり、職場では「長時間労働をしなければ、活躍できない」といった価値観が存在している。ここにメスを入れないで、人材不足を補うべく「女性を男並みに働かせよう」とするのは無理がある。女性活躍とは、「男は仕事、女は家庭」という価値観のなかでできた仕組みの中で、女を男にして働かせることではない。それはむしろ少子化をさらに進める結果を招くことだろう。

 女性が活躍し、出生率の回復に成功した国では、どこも家庭における夫婦の不平等の是正に成功している。

 日本も、長時間労働の問題や家庭における男女の不平等の問題に手をつけないままでは、女性が安心して子どもを産み、活躍する社会は実現できないだろう。「資生堂ショック」は、女性社員のみに両立支援をすることで女性が活躍する社会が実現できないことを明らかにした事例なのである。誰もが活躍できる社会を実現させるためには、家庭における男女の不平等の問題や「長時間労働」の是正が不可欠なのである。それをどのようにして実現させていくのか。いま日本の女性労働問題は新たなステージに入り、日本社会は大きな時代に転換点に立っている。「資生堂ショック」は、一社だけでは対応できない、社会全体で解決していかなくてはならない問題を提起しているのである。

この人に聞きました
大沢真知子
日本女子大学教授
大沢真知子さん
南イリノイ大学経済学部博士課程修了。Ph.D(経済学)。シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学助教授、亜細亜大学助教授を経て現職。著書に『女性はなぜ活躍できないのか』(東洋経済新報社)などがある。

構成/井上佐保子