働き方や生き方の“選択肢”を増やしたい

 主夫歴8年の堀込さんは、東大卒の元エリート社員。大手自動車メーカーに勤務していた時には、2年間の育休を取得している。その後、妻の海外赴任をきっかけに会社を退職。今は翻訳の仕事をしながら、研究者の妻と二人の子どもの家事や育児を担っているという。堀込さんはこう続ける。

「僕たちの真の目的は、働き方や生き方の“選択肢”を増やすことです。本来、家のことは夫と妻、どちらがやってもいいはずです。もっと柔軟に生きられる社会を作りたいという思いがありますね」

 “でも、それってイクメンやカジメンとどう違うの…?” そんな疑問を投げかけたところ、返ってきたのはこんな答えだった。

「主夫と宣言することで、『当事者意識』が芽生える。“お手伝い”ではなく、自分のこととして家事や育児に向き合うことができるんです」

 「夫に家事を頼むと“やらされている感”を出されてイラッとする」。働く主婦がそう口にすると、決まって「手伝ってくれることに感謝しなくちゃ」といった意見が挙がる。至極もっともではあるし、誰も感謝をしていないわけではない。けれども、胸に広がるモヤモヤはやっぱり晴れない。多くの男性に根付く価値観がそうさせるのだろうと半ば諦めていたが、堀込さんが口にした“当事者”という言葉に、ハッとさせられた。

 「主夫の友」の顧問を務めるのは、少子化ジャーナリストの白河桃子さん。“専業主婦になりたい”という若い女性たちに“甘い考えは捨てるべき”と警告を鳴らしている白河さんだが、堀込さんの活動を知り、共感したという。

「“主夫になりたい男性と主夫と結婚したい女性たちの婚活パーティーもやりたい”と聞いたので、需要を探ろうと周りの女性たちに意見をたずねところ、大ブーイングで…。“それならこんなやり方はどう?”などとアドバイスしているうちに、顧問に就任しました」

 イベントは、「リアル主夫家庭によるトークライブ」と「慶應義塾大学SDMハッピーワークショップ」の2部構成。まずは、「主夫の友」で唯一の現役専業主夫である“しゅうちゃん”こと、佐久間修一さん(48歳)と妻の記代子さんが夫婦で登壇。お子さんも一緒だ。

トークライブに登壇した佐久間さんファミリー。
トークライブに登壇した佐久間さんファミリー。

 元システムエンジニアの佐久間さんは、30歳の時に8歳年下のグラフィックデザイナーである記代子さんと結婚。しかし、結婚3カ月で夫である佐久間さんの難病が発覚する。仕事ができない状態になった佐久間さんは、妻の将来を考えて離婚を申し出るも、「“何言ってんの!”と、殴られました」。そして、「私が稼いでくるから家のことをやってほしい」と提案されたという。

 とはいえ、18年前といえば、消費税率が5%に引き上げられたばかりの年。もちろんダイバーシティなど、ほとんど世間に浸透していない時代だ。“夫が仕事をしていない”という状況に、世間の目は厳しかった。

 「近所の人に“主夫をしている”と言ったら、「ごくつぶし」と言われ、いたたまれない気持ちになったこともあります」。さらに、「妻の実家への敷居はもっと高かった」と振り返る。