根強い「“男は働くもの”という概念」

 専業主夫として家のことをやるようになってからも、すぐに気持ちを切り替えることはできなかったと言う。「“男は働くもの”という概念があり、後ろめたかった。妻を見送った後、スーツに着替え、家事をし、その格好でスーパーに買い物に行っていました」

 世間に白い眼で見られないために、“妻に頼まれてたまたま買い物にきた夫”を演じていたという佐久間さん。そんな状態が2~3年間続いた。

 一方、夫のサポートのおかげで、記代子さんは仕事にまい進し、どんどん収入を増やしていく。そして結婚3年目、佐久間さんは決意する。「妻をサポートし、専業主夫として生きよう」。覚悟の証として髪を金髪にし、所信表明。いかにも“自由人”といった風貌の金髪にそんな思いが込められていたとは、正直意外だった。

 結婚15年目に子どもが生まれ、出産2カ月で妻が仕事復帰した時には、授乳のために、毎日車に子どもを乗せて記代子さんの会社まで通ったという。

 二人が世間一般の固定観念に潰れずにやってこられたのは、妻である記代子さんの価値観も大きく影響している。彼女はこう話す。「もともと人と同じすることをするのは好きじゃないんです。ちょっと変わっているくらいが、私らしいかなと(笑)」

 働くことのできない夫に離婚を打診された時も「別れることは、まったく考えなかった」という。そもそも仕事が大好きで結婚願望が薄く、“こうあるべき”という結婚観もなかった。佐久間さんと出会ったことで、「この人となら面白い人生が過ごせそう」と確信し、一緒になった。「相手に幸せにしてもらう」という、もたれかかった結婚観を全く持っていなかったことは、夫の心の負担を軽くしたに違いない。

「家にこもりがちでつらそうな時もありました。社会性が絶たれ、モチベーションの持って行きどころがなかったのでしょうね。だからこそ、やりたいことがあるならどんどんやってほしいし、お互いが元気で明るく生きられれば、それでいい。他人が私たちをどう見るかは分からないけれど、私は夫と一緒にいるのがやっぱり面白いんです。いろんなことに興味を持っているから、話していて飽きないし、自分にはできない家のことを一生懸命やってくれる。そんな夫を尊敬しています」

 そんな佐久間夫婦が実現している「幸福」の秘訣とは? 明日公開の記事へ続く。

取材・文・写真/西尾英子