カネやモノを条件とした幸せは長続きしない

 トークライブが終わると、幸福学を研究している慶應義塾大学大学院の前野隆司教授による「ハッピーワークショップ」に突入。自分にとっての幸せの価値観を知り、他人とシェアしあうのだという。

幸福学を研究する慶応大学の前野教授。
幸福学を研究する慶応大学の前野教授。

 通常の婚活イベントの場合、最初に「条件」の提示が必須だ。それがアピールポイントになり、互いをジャッジする材料になる。ゆっくりと相手を知るのはそれから、というケースがほとんどだが、このイベントでは、肩書はあえて出さない。前野教授いわく、「カネやモノといった“地位財型”の幸せは長続きしないことが判明しています」。

 金、モノ、社会的地位といったものは、「他人と比べられる財」であり、幸せな気持ちが長く続かない。これからは、安全や健康、心的要因といった“非地位型”の幸せを目指すべきだと話す。心的要因とは、(1)自己実現と成長(2)つながりと感謝(3)前向きと楽観(4)独立とマイペースの四つだという。

 白河さんもこう話す。「条件だけの婚活には限界があります。互いの幸せについてしっかり話し合う方が、実は婚活でもカップリング率が高いんです」

 前野教授による「幸せのメカニズム」のレクチャーを受けたあとは、自分の幸せや夢を紙に書き、グループ内でシェア、さらに他の参加者ともシェアしあう。皆が一斉に席を立つと、会場が一気ににぎやかになった。あちらこちらで「自分の幸せ」について記した紙を互いに見せて、読み合う声が響く。少し気恥ずかしそうにしている人もいれば、積極的に声をかけ、シェアしあう人も。異性間だけでなく、同性同士でも自分の考え方や夢を語りあう、熱気に満ちたポジティブな姿が印象的だった。

ワークショップを通じた交流の時間。
ワークショップを通じた交流の時間。

 「これからの時代は、多様なことをする人が幸せを感じやすい。“やらされている”と感じると幸せ感は得られません。みんなぜひ積極的にいろんなことをやってほしい」(前野教授)

男性が主夫として家事に参画するメリットとは?

編集者の岩本さん。
編集者の岩本さん。

 今回、主夫たちから感じた“幸せ感”の理由もきっとそこにある。自然体で楽しそう、そしてみんな表情が明るい。主夫を“やらされている”のではなく、自分で選択し、その生き方に納得しているからなのだろう。使命感を持って積極的に発信し、社会と接し続けているから視野だって広い。主夫だからといって、家にこもっているわけではないのだ。

 イベント後、参加者に話を聞いてみた。「もし結婚後、自分が主に働くことになった場合、主夫として一緒に家事に参画してくれる人がいい。実際の主夫の話を聞いて参考にしたかった」という編集者の岩本さん(27歳・女性)は、「主夫の人たちは、“男は稼いでなんぼ”といった変なプライドを持っていないところがいいなと思った。子育ても家事も責任感を持って楽しんでやっている。こういう男性がもっと増えるといいですよね」と話す。


スポーツ競技団体職員の澤永さん。
スポーツ競技団体職員の澤永さん。

 また、スポーツ競技団体職員の澤永さん(20代半ば・男性)は、「いくら好きでも、価値観が違うと一方が我慢することになり、幸せにはなりづらい。どういった働き方や生き方を望んでいるか、腹を割って話せるパートナーを見つけることが大事だと感じた。その時々によって、役割を柔軟に変えることのできる家庭を持てればいいなと思いました」

 また、男性が主夫として家事に参画することで、様々なメリットがあると感じたという。

 「今、社会の想像力が乏しくなっているけれど、男性が家事や育児を本気で取り組むことで、働く女性にかかっている負担が実感でき、結果的に、いろんな人に対して許容できる社会になるのでは?」

 家庭の事情やライフスタイルによって、「経済面を主に担う人と、家庭の仕事を主に担う人」が、その時々で交代できる。あるいは、できるほうができることを当たり前のこととしてやる。そんな柔軟な価値観と生き方が浸透すれば、女性の働きづらさや男性の生きづらさもずいぶん変わるのではないだろうか。一時的でも、互いの立場を入れ替えることで、より理解度も深まるし、置かれた立場になって初めてわかる気づきや感謝もある。

 何があるか、未来は誰にも予測ができない。けれども、固定観念という呪縛から逃れることで、自分らしい生き方や本当の幸せが見えてくるのではないかと思う。

取材・文・写真/西尾英子