21世紀はアジアの時代

 「当時は特別な目標があったわけではなかったけど、大学にはいろいろなバックグラウンドをもつ教授や同級生がいて、特にアジア系の人に面白い人が多かったんですよ。21世紀はアジアだなと感じさせるパワーのようなものがあった。それで、一度アジアを見てみようと」

 あの衝撃的な9.11のテロ事件をきっかけに、“世界の頂点たるアメリカ”という神話が確実に崩壊するという時代背景もあった。

 「若かったから、特にそういうことに敏感だったのかもしれないですね。いまここにいるのがベストではなく、自分にとっての可能性はアジアなんだ、みたいな」

 また、ビザ以外でも、税金の支払いや銀行口座開設など、永住権を持たない人がアメリカで何かを始めるにはハードルが高いことも実感していた。

 「当時の自分には、アメリカで勝負をするには足りないものが多すぎると思ったんですよ。だから、もっといろいろなことを経験して実力を身につけ、いずれアメリカに戻ってこようと。アジアに向かったのは、そういった思いが重なった結果です」

アップデートされたマイアカウント

 そして、2004年に香港へ。本人いわく、「香港ではいろいろな仕事に手を出した」とのことだが、たまたまクラブでのジャムセッションに飛び入り参加した姿が編集者の目に留まり、モデルの仕事をスタートさせる。ミュージックビデオやショートフィルムへの出演を経てテレビドラマや映画にも出演するようになり、2005年に主演した香港映画の成功で知名度が上昇。翌年には拠点を台湾に移し、アメリカや日本でも俳優として活動する傍ら、ジャカルタでは音楽活動も行っている。

 俳優を目指していたわけでもなく、ほかにやりたいことがあったわけでもない。一見、流れに身を任せたような人生。けれど、こうはなりたくないという確固たる思いはあった。

 「人をだましたり、傷つけたりすること。それだけは絶対にすまいと誓っていましたね。それさえしなければ、逆に何をやってもいいと。あとは走りながら必要なものを拾っていく、という感じですかね」

 そうして手に入れたのが、アメリカや日本での仕事。学生時代を過ごした国や、自分の生まれた国で仕事ができるようになったことは、非常にうれしいと語る。そして、自身が経験を積み重ねていくことを、いかにもIT関連での起業を目指していた青年らしく表現した。

 「日本で開いた自分自身というアカウントは高校生で、アメリカでのアカウントは大学卒業で止まっていた。それが、両国で活動できることによってアップデートされた感じですね」

(敬称略)

(後編に続く)

取材・文/笹沢隆徳、写真/宮川 透

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