夫婦同姓婚は日本の「伝統」ではない

 もしかすると皆さんの中にも「夫婦同姓は日本の伝統」と考えている人も多いのではないでしょうか。それは違うのです。

 そもそも姓名というものが歴史の中で変化しています。

 現代の私たちの姓名は、姓(名字、氏)と名で構成されていますが、かつては「氏」(同じ血縁集団をあらわす)と、「姓」(政治的な地位を表す)と、「名字(苗字)(所有地を表す)」は、それぞれ別のものでしたし(たとえば、徳川家康は、徳川(苗字)源(氏)朝臣(姓)家康(名)となります)、木下藤吉郎が、羽柴秀吉、豊臣秀吉と変わってったように、人生の中で姓名が変わることは珍しいことではありませんでした。

 歴史の中では、夫婦同姓の時代もありましたし、夫婦別姓の時代もありました。そもそも平民が正式に姓を名乗ることが認められたのは、ご存じのように明治に入ってからで、しかもその当初は法律では「夫婦別姓」だったのです。それが明治民法制定時にドイツに倣って夫婦同姓に変わったのです。

 お手本としたドイツでも、今では選択的夫婦別姓が可能となり、ドイツ人と結婚したクルム・伊達公子さんのように、手続きをすれば二人の姓を連結することも認められています。海外では夫婦同姓制度と再婚禁止規定は廃止の流れにあり、国連の自由権規約委員会や女性差別撤廃委員会からも日本の両規定が「女性差別に当たる」として繰り返し勧告を受けているのです。

 日本でも夫婦別姓運動は実は30年ほど前にも、大きく盛り上がった歴史があります。皆さんには信じられないかもしれませんが、その頃は旧姓をビジネスネームとして使用することすらありえない!という世間の空気がありました。

 女性アナウンサーや、女性芸能人でも、結婚を機に夫の姓で活動する人も多かったのです。

 1986年の男女雇用機会均等法施行もあり、「旧姓使用を認めないことは、キャリアの連続性への妨げになる」として、旧姓のビジネスネーム使用が広がっていったのです。それ以前は論文を書く研究者も、姓の変更によってキャリアが分断されてしまうという事態に見舞われていました。

 その後も1996年に「選択的夫婦別姓」を可能とする民法改正案を法制審議会が答申していましたが、「夫婦別姓は家族の一体感が損なわれる」という自民党の反対などを受けて20年近く経った今でも国会の動きはありません。今回、最高裁大法廷で憲法判断を示す可能性が出てきたことで、法改正への期待が持てると注目しています。