:不妊治療を経て44歳で出産したのですが、子供を産んで良かったと思うことは、仕事が自分にとって、いかに大切か、その思いを再確認できたことです。出産して6日後には、『週刊文春』に20枚の出産記を書いていました。書きたくて書きたくてたまらなかった。私は本当に書くことが好きで、母親業に引っ張られずにやっていけると確信できました。

――子供ができると、キャリアの階段を降りたり、仕事のペースを緩める人も少なくありません。

:私はそういうのが嫌だったので、仕事に注力しました。もちろん、しばらくマイペースでやるのもひとつの考え方だと思うのですが、そこで育児エッセイを書いたりするのではなく、まったく方向性を変えずに、出産前と変わらないスタイルで仕事をしていたいという意地のようなものがありましたね。

――“意地”ですか? それは、何に対する意地だったのでしょう。

◆伝えたい言葉2
「人を成長させるのは子供じゃなく、仕事です」

:なんだろう…。「へえ、そんなに子供が欲しかったのね」と、謎解きされるようなことがすごく嫌で、反発心があったのかもしれません。分かりやすいレッテルを貼られたくなかった。「これからいいお母さんになるんでしょ?」みたいな見られ方が嫌だったのかも。

 私が一番嫌いなのが、「子供を産むことで、人間的に成長する」という考え方です。

 人間を成長させてくれるのは、やはり仕事だと思います。子育てももちろん大変だけれど、子供は自分を無条件に愛してくれる存在ですから、向き合うことは精神的にそこまで辛くはない。でも、仕事の場合、顔を見るのも嫌な人と一緒に働かなくてはいけません。時には罵倒されたり、人間性を否定されたり、罠にかけられて足を引っ張られることもある。誤解だってあります。そういったことを経験して、悔し涙を浮かべながら、みんな成長していくわけです。ですからはやり、仕事こそが人間の成長に最もつながるものだと思っています。

*詳しくは ⇒ 林真理子さんインタビュー(2)

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