まかり間違っても、企業のトップが「制度は作った。あとはよろしく!」と現場に押し付けたり、国が「女性活用を! ワークライフバランスを! 少子化解消を! あとはよろしく!」と企業に押し付けたりして、ジ・エンド、にするような無責任な社会ではありません。

 「え? 30%無理? だったら辞めちゃう?」などと投げ出すこともありません。

 女性の問題は、「個人の問題」ではなく「組織の問題」です。「組織の問題」だけじゃなく、「社会の問題」。そのことがそこで暮す一人一人に、伝わっているのです。

 スウェーデンで無用な軋轢が生まれない工夫が施されている背景には、明確な「国のカタチ」が掲げられた経緯があります。

 「安全、安心、公平、公正な社会を、国民全員が豊かになれる社会を目指そう」――1960年代に、首相を務めていたエランデル氏が訴え、出産・育児、教育、老後など、それぞれのライフステージによって、国民みんなが豊かになるための政策を進めた結果の中の1つが、育児休暇なのです。

 なんか羨ましいですよね。そのためには税金もそれなりに払います。でも、勝手に決めるわけじゃありません。

 その都度「これでいいですか? 増税に賛成してもらえますか?」と国民に賛否を問います。それを1960年以降、20年近くに渡って繰り返し、地方にも最大限の権限を与え、行政サービスが提供できる土壌づくりも推進しているのです。

 もし、日本でも「数値目標」をあっさりと断念せず、「なぜ、小泉政権が掲げた30%の数値目標に、10年以上が過ぎても、近づくことができないのか?」をとことん考えれば、社会は大きく変わったことでしょう。

 「いやぁ、これからはどんどん女性の管理職は増えますよ」と口にする男性は山ほどいますが、「今、ここで思っている問題」に、正面から向き合おうとする人たちは少ない。誰もが心の中では、「代替要員さえいれば……」と分かっているはずなのに……。

 残念、実に残念なことです。もうひと踏ん張りしてくれれば、マタハラという刃で傷つく人も、裁かれる人も減らせたのに。ホント、残念でなりません。

みんなの笑顔のために今すぐできること

 とはいえ、現場では、この時間も多くの女性たちが働いています。子どもができた幸せを噛み締めている人たちがいます。そんな彼女たちの笑顔に、多くの人たちが「良かったね」と祝福しています。

 その笑顔を怒りや悲しみに変えないために、できること。そのためにできることは何でしょうか? 

 フィールドインタビューで聞こえてくるのは、「一言欲しかった」という周囲の人たちの不満です。

 「ご迷惑かけてすみません」「いつもご迷惑おかけしているので、今日は私が代わりにやります」といった具合に、たった一言をワーキングマザーに言ってほしかったと。自分が彼女の“穴”を埋めていることを、空いた“穴”で苦悩していることを、分かってほしい。そう語る人たちは、想像以上にたくさんいます。

 一方、ワーキングマザーは、「育児との両立は大変だと思うけど、頑張れ!」と応援してくれる人が、たった一人でいいからいてほしかったと。たった一言でいいから、自分を認めて欲しかった。彼女たちもまた、たった一言を求めていました。

 たったそれだけのことで? そう思うかもしれません。確かにこれで問題が解決されるわけでもありません。根本的な問題に取り組まない限り、ダメ、です。

 でも、小さなことが、その場の空気を、フワッと温めることがあるものです。もし、たった一言で、少しだけ温かい気持ちになれるのなら、それってすごいことなんじゃないでしょうか。

 間もなく今年も終わります。2016年が、今より少しだけ温かくなることを祈って……。また、来年お会いしましょう!

Profile
河合 薫
河合 薫
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士
1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学講師、早稲田大学非常勤講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。