ゴールへの最短距離を探す

 卒業したら、調理の専門学校に行く。そこに迷いはなかった。3年生の時はいわゆる進学クラスに属していたが、親も約束通り「もう好きにしなさい」と言った。

 松嶋は東京の調理師専門学校「エコール辻東京」に入学した。普通は学校が与えるカリキュラムを真面目にこなそうと考えるはずだ。しかし、松嶋は普通とは少し違った。

 「入学したての頃、いろいろな店に食べに行きました。そこで、多くのシェフに言われたんです。『おたくの学校の生徒は頭でっかちだ』『何か分かったふりをしているやつが多い』『学校で学んだことは現場では役に立たない』と。

 それを聞いてこう思いました。授業だけで料理を学んだ気になるのはよくない。実技は、学校ではなく本当の現場で覚えた方がいい。やり抜いて体に染みこませないと意味がない。そこで、「付け刃になるくらいなら、包丁は最低限しか握らない」と決めました。

 専門学校の授業で、決められた料理を班に分かれて作らなきゃいけない時がありました。基本的な材料の切り合わせなどの準備はやりますが、ソースを煮詰めたりと味を決定的にする作業は一切やりませんでした。その代わり、他のすべての班のところにスプーンを持って回って、味見をしていました(笑)。

 授業で1回実技をやっただけで『できます』と言うのはかっこ悪い。いざ就職して中途半端さを露呈するくらいなら、最初から『わからないので教えてください』って言える方がいい、本当の現場で教えてもらった方がいいと思っていました。

 それよりも大事なのはみんなと仲良くやって、人間関係を専門学校時代につくることだと考えていました。この職業を続けていく中で、ここで出会った人たちが自分のライバルでもあり、同僚にもなる。学校は技術を学ぶところではなく、ネットワークをつくるところだと。だから、浮いていましたよ、本当に。

 とにかく味見はよくしていましたね。この班のはこういう味だった。あっちの班はああいう味だったと。先生に『何でお前、味見ばっかりしているんだ?』って言われると『いや、味見も勉強じゃないですか』と言い返したり。相変わらず反抗的だったんです(笑)」

 一方、専門学校の調理テストでは持ち前の器用さを発揮している。

 「『料理をする工程を無視して作っちゃだめなんですか? 工程も大切ですけど、最終的な味、イコール、ゴールを決めることが大切なのではないですか?』という質問をいやらしくしてみたり。

 調理テストでは、通常なら15分ぐらいかかるところを、僕は5分ぐらいで終わらせて、断トツで一番速く料理を作り上げていたりしました。

 先生に『それ、工程通りにやってないじゃないか!』って言われても。『だけど味をみてください。問題ないでしょ?』という風な態度でしたね。

 一般的には、何かを順番通りにやるからこそゴールがあると思うものでしょう。けれども、僕はまず最短距離を見つけるのが好きなんです。ずっと、そんなことばかりやっていました」