Shung Artに掲載のイチオシ春画は?

橋本:例えば、歌川国芳の「当盛水滸伝」。国芳は「武者絵」で有名な絵師で、どちらかといえば「少年漫画」っぽい感じの浮世絵を描いていた人なんですね。彼の描く全身タトゥーの登場人物に、江戸の男の子たちが感化され、江戸じゅうで全身タトゥーが大流行したこともあったそうです。

――そうだったんですか!

橋本:現代でいうところの「男塾」や「リングにかけろ」、「聖闘士星矢」のような、荒唐無稽でワクワクするような世界を彼は描いていた。もう、“リンかけ”の、バコーンとパンチが飛び出す「ギャラクティカマグナム!!」のような描写のオンパレードなんです。

 そんな絵師が「春画」を描いたら、「一体どうなるんだ?」って思うじゃないですか(笑)。

歌川国芳「当盛水滸伝」
歌川国芳「当盛水滸伝」
国芳の名を「武者絵の国芳」として有名にならしめたのは「水滸伝」の錦絵だった。現代の少年漫画を思わせる描写が挟み込まれている。その得意テーマを春画で試みた作品。

――「国芳はエロい絵も描けるのか!」と。

橋本:「なんでそうなるの?」の連続で、これを見た当時の人たちは、「やっぱり国芳はこうでなくちゃ!」と盛り上がっていたのでしょう。ある意味、セルフパロディーなんですよね。国芳が表でどんな浮世絵を描いていたのかを知っていた方が、より楽しめるわけです。

――個人的に可笑しかったのが、鈴木春信の「風流艶色真似ゑもん」でした。自分自身が小さくなって、いろいろな人たちの「行為」を覗き見するとか、もう「中二的発想」ですよね(笑)。

鈴木春信「風流艶色真似ゑもん」
鈴木春信「風流艶色真似ゑもん」
体が小さくなる妙薬を飲んで、どこにでも忍び込めるようになった男(真似ゑもん)が、伊香保温泉で性風俗を覗き見していくというシリーズ作品。この時代には、錦絵/春画が江戸を代表する土産物になっていた。

橋本:(笑)。そう、まさに中二病です。こういう「覗き見趣味」は昔からありました。しかも海外にも「親指トム」みたいなキャラクターもいるわけですよね。

 春画そのものが、ある意味では人の「行為」を覗き見ているようなところがあるわけですが、ここに真似ゑもんという「読者視点」のキャラクターを置くことで、あたかも自分が画面の中に入り込んだような気持ちになれるというか、楽しさがより膨らむと思うんですよね。