Q8 ジカウイルス感染症の予防は?

 ジカウイルスを予防するワクチンは現時点ではありません。蚊に刺されないことが予防の1つになります。蚊に刺されないようにすることは、デング熱、チクングニア熱やマラリアなどと同様の対策になります。

 長袖のシャツを着用し、ディート(DEET)を含む虫除け剤を使用すべきです。虫除け剤は濃度にもよりますが。何度も塗り直す必要があります。汗や雨で濡れた場合にも塗り直さなければなりません。2カ月以下の赤ちゃんには使用できません。子どもの場合にはなめないようにするため、手には塗らないようにしましょう。その他、ペルメトリンを繊維に織り込んだ衣類も有用です。

 ビーチでも蚊に刺されないために、長袖を着用し、海から上がるたびにディートを塗り直す必要があります。

 また、流行地域に渡航歴がある男性との性交渉は注意する必要があります。血液中よりもより長く精液にウイルスが存在していると考えられています。さらに、8割のジカウイルス感染者は無症状であることを考えると、ある程度の期間は、ジカウイルス感染症の流行地域への渡航歴のある男性と性交渉する場合には、コンドームの使用が推奨されます。

Q9 妊婦や妊活中の女性は、どう注意すればいいですか?

 米国のCDCは、妊娠中の女性はジカウイルス流行地域への渡航を延期するように警告しています。どうしても渡航せねばならない場合には、医師と相談し、蚊の予防策を厳格に守る必要があります。

 妊活中の女性に対しても医師と相談すべきであると警告しています。小頭症との関連性は研究中ですが、現時点では妊娠中の女性、妊活中の女性の流行地域への渡航は避けるべきでしょう。

 一方、パートナーや家族が流行地域へでかけ、例え日本に持ち込んだとしても、ウイルスが体内にいる時期に蚊に刺されなければ蚊を媒介して感染することはありません。ただし、性交渉によって感染する可能性もあります。男性パートナーは流行地域において防蚊対策をとり、一定の期間はコンドームを使用すべきでしょう。

 新婚旅行や妊娠中に海外渡航する場合には、渡航先でジカウイルス感染症の流行がないか、CDCの公式サイト厚生労働省検疫所のFORTH外務省の海外安全情報で、最新情報を確認する必要があります。

 特に今年は、リオデジャネイロでのオリンピック、パラリンピックに向けて多くの日本人が、ジカウイルスが流行しているブラジルに渡航する可能性があります。ビジネスでもプライベートでも、現地に赴く必要のある人は、よく注意をすべきでしょう。

ジカウイルスを過度に恐れる必要はないものの

 ジカウイルスと小頭症の話をしてきましたが、ジカウイルスよりも風しんやトキソプラズマなどで小頭症になる可能性のほうが高いと思われます。ワクチン接種(麻疹、風しん、おたふく、水痘)や生肉を食べない、土や砂場の砂を触った後には手を洗うことなど、ジカウイルスを恐れる前にやるべきことがあります(ナビタスクリニックでは、妊娠前に感染症のチェックを行うことで、必要なワクチン接種や妊娠中の生活アドバイスをしています)。

 今回、妊娠中に注意すべき事柄に、「蚊に刺されないこと」が新たに加わりました。ジカウイルスは過度に恐れる必要はありません。正しい情報に基づく正確な知識でジカウイルスという新たな脅威に立ち向かうべきです。

文/自治医科大学附属病院感染症科ナビタスクリニック川崎 法月正太郎

(※「日経トレンディネット2016年2月8日付の記事を転載)