妊娠前から葉酸摂取を

 講座の後半には、モデルでデザイナーの雅姫さんをゲストに、3人の講演者がパネルディスカッションを展開。20歳の娘の母でもある雅姫さんは、モデルでもともとやせていたこともあり妊娠時には20kg体重が増えたとし、次のように語った。「低出生体重児だと、こんなにいろいろなリスクがあるとは知らなかったし、赤ちゃんのためにはビタミンD摂取が重要で、そのために日光浴も大事だということが分かった。娘にもこのような話をぜひ伝えたいです」

 妊活中、妊娠中に気を付けたい重要なポイントとして、福岡教授は、「受精してから2週間は誰も妊娠に気付かないが、実はその間の栄養状態は赤ちゃんの心身の発達に非常に重要。特に、葉酸は、妊娠3カ月くらい前から妊娠後期までサプリメントで1日400μgをとってほしい」と、妊娠前からの栄養管理の必要性をアドバイスした。

妊娠する前からの栄養の状態が大切。だから、「いつか」のために、今からちゃんと食べておかなきゃね イラスト/もり谷ゆみ
妊娠する前からの栄養の状態が大切。だから、「いつか」のために、今からちゃんと食べておかなきゃね イラスト/もり谷ゆみ

 幸村医師は、「炭水化物不足の人が多いので適切な量の摂取が望ましい。忙しい妊婦さんは外食やネットスーパーなどを活用するのもいいが、栄養バランスに留意し、外食の際は過剰な塩分摂取に注意して」と強調。保健所や医院などの栄養相談の活用を薦めた。

 秦部長は、「低出生体重児でも、親のスキンシップや出生後の食生活、運動で、生活習慣病発症のリスクを減らせます」とし、乳幼児期の栄養管理やスキンシップの重要性も強調した。

妊活中、妊娠中の葉酸・ビタミンD不足は危険
 心臓病や脳卒中を引き起こすような生活習慣病の発症は、胎児期の栄養不足が起源となる。特に、受精した時点から1000日間の母体の栄養状態が、赤ちゃんのその後の健康を大きく左右する。神経管閉鎖障害や将来の生活習慣病を予防するためにも、妊娠前から葉酸、炭水化物、ビタミンB12などの栄養素をしっかりとることが大切。また、日光によって合成されるビタミンDの不足が、赤ちゃんのくる病増加、1型糖尿病や統合失調症の増加のリスクにつながる可能性が指摘されており、過度の紫外線対策は禁物だ。

福岡秀興研究院 教授
早稲田大学理工学術院総合研究所

東京大学医学部卒業。米国ワシントン大学留学、香川医科大学講師、東京大学大学院助教授などを経て現職。日本DOHaD研究会代表幹事。日本産科婦人科学会専門医。著書に、『危険がいっぱい思春期ダイエット』など。

不適切な栄養状態が赤ちゃんの体質を変える可能性
 最新の研究で、環境による変化が遺伝することが分かってきた。例えば、ある毛色のマウスに妊娠中に極めて大量の葉酸を食べさせると、その仔の毛色が変わる。妊娠中にお母さんがやせ過ぎか太り過ぎだと、DNAに化学的な修飾が加わって体質が変わり、生活習慣病になりやすくなる可能性がある。一方、生まれたあとの食事、生活習慣などの環境要因でもDNAの化学的な修飾は変わるので元に戻せる可能性も十分ある。成長発達や病気は、一つの原因だけですべてが決まるわけではないので、神経質になり過ぎずに子育てを楽しんで。

秦健一郎 部長
国立成育医療研究センター研究所周産期病態研究部

九州大学医学部卒業。同大学院修了、米国マサチューセッツ総合病院博士研究員、国立遺伝学研究所助手を経て、2006年より現職。日本産科婦人科学会専門医。胎児期の影響についてゲノム・エピゲノム研究を行う。

妊婦の栄養不足は深刻 適切な栄養摂取を心がけて
 20代の女性の約1/4はBMI18.5未満でやせ過ぎ。妊婦135人を対象にした食事調査においては、妊娠全期間の1日平均摂取エネルギーは1600kcal未満で、食事摂取基準と比較して妊娠後期には37%も不足していた。妊娠中の栄養摂取不足により、胎児発育が低下するという報告がある。低出生体重児、母体の栄養摂取不足の例が増えると、将来生活習慣病の増加につながるかもしれない。そのため妊娠中は十分な胎児発育が得られるよう適切な栄養摂取を心がけ、国のバランスガイドを参考に必要な栄養素をしっかりとってほしい。

幸村友季子 医師
浜松医科大学産婦人科学講座

浜松医科大学卒業後、同大医学部付属病院産婦人科勤務。日本産科婦人科学会専門医。胎児期の低栄養環境における成長後のメタボリックシンドローム発症のメカニズムを研究。妊婦の栄養指導も行っている。

日経WOMAN 2017年1月号掲載記事を転載
この記事は記事執筆時の情報に基づいており、肩書や組織名などを含め、現在では異なる場合があります

取材・文/福島安紀 構成/黒住紗織(日経BP総研、ヘルシー・マザリング・プロジェクト)

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