北欧、南米、日本での連携で即行動

―― 署名活動を呼び掛けたのは、福田さん以外に、日経doorsでも何度かジェンダー平等への力強いメッセージを発信してくださっている山本和奈さん(Voice Up Japan代表理事)、能條桃子さん(NO YOUTH NO JAPAN代表)の3人ですよね。

福田 終了後、「たくさんの人の熱い思いを、受け皿がないままにしておくのはどうなのか」と考えていたとき、クラブハウスのルームにいらっしゃった能條さん(編集部注・能條さんは政治や社会問題を分かりやすく解説するメディアを立ち上げている)から、連絡をいただき、お互い署名活動をしようかどうしようか迷っていることが分かって。メッセンジャーで思いを語り合う中で、「やっぱりやろう!」と決めました。和奈さん(編集部注:山本さんは、『週刊SPA!』の「ヤレる女子大学生RANKING」企画に抗議したり、性犯罪の刑法改正を求めて署名を集めたりとアクティビストとして活動)もきっと一緒に声を上げてくれるだろうと連絡を取り、3人で署名活動開始の準備を始めました。

 署名活動を始めると決めたのが、4日の朝4時ごろ。まずは能條さんに寝てもらい、南米・チリで活動をしている和奈さんに連絡して相談した後、日本時間の朝までに署名キャンペーン情報のたたき台を書いて、私が寝た後には能條さんに引き継いで動いてもらって。皆さんが力を貸してくださり、署名の呼び掛け人として私たちも含めて11人が加わり、日本時間の4日夜9時から開始しました。

あえて辞任を求めなかった理由

―― 署名活動を始めるにあたり、直前まで迷いがあったそうですね。

福田 声を上げていくことは精神的にも肉体的にも体力がいりますし、この活動を「私たちがすべきか」「私たちでいいのか」と開始当日まで迷い、話し合いました。Twitterを見ていると、当初は森会長の辞任を求める声がほとんどだったのですが、「彼がただ形だけ辞めても何も変わらないよね」という思いを私たちは共通して持っていて。日本社会の構造上の問題であって、個人を攻撃しても仕方がありません。謝罪会見当日の4日午前中には準備ができていて、正午には署名活動を始められる状態でした。でも、個人攻撃ではなく周りの人たちも考えてほしいという思いから、森会長の謝罪会見を受けて内容を最終的に調整し、夜から署名を始めました。

―― 署名活動は「女性蔑視発言『女性入る会議は時間がかかる』森喜朗会長の処遇の検討および再発防止を求めます #ジェンダー平等をレガシーに」とハッシュタグもついています。森会長の「辞任」ではなく、処遇の検討、再発防止策の実施などを求めた理由も、組織として考えてほしいという思いからでしょうか。

福田 「森会長の発言をこのまま許してはいけない」という人の声を、署名の数で可視化したいと思いました。謝罪会見を見ましたが、あれは決して謝罪ではなかった。森会長個人に向けて出したのではなく、日本政府(菅義偉首相、橋本聖子大臣)、東京都(小池百合子知事)、日本オリンピック委員会(山下泰裕会長)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(森喜朗会長)に向けて、「森会長の処遇の検討」「再発防止策の実施」「日本オリンピック協会の女性理事の割合4割達成」を求めるオンライン署名を掲げています。

 「辞任」ではなく「処遇の検討」にしたのは大きな意味があります。大会の会長という立場は、ジェンダーを含めて意識のアップデートも職務の1つ。また、本人だけの問題ではなく、周りが笑ったり、無言で容認したりという状態ではジェンダー平等の実現は難しい。彼がその場にいることを許し続けているのは、個人ではなく構造の問題です。撤回謝罪も批判の中身を理解していないし、これまでも同様のことは何度も再発していて、形だけの謝罪、辞任では足りません。彼がその立場でいることを認めている人たちが、どういうスタンスをとるかを明らかにして、きちんと検討してほしいと思いました。

ケニア・ナイロビで開催されたジェンダー問題などに取り組む国際人口開発会議(ICPD25)では国際家族計画連盟(IPPF)ユース代表として発言した福田さん
ケニア・ナイロビで開催されたジェンダー問題などに取り組む国際人口開発会議(ICPD25)では国際家族計画連盟(IPPF)ユース代表として発言した福田さん